米Apple社と大手出版社5社が協定を結んで、電子書籍の小売価格を引き上げた疑いがあるとして米司法省が訴えている裁判で、米連邦裁判所は7月10日、米Apple社が価格操作を行ったと認定する判決を言い渡した。
電子書籍の販売に関しては、先行者であるアマゾンが小売り側が価格を決める仕組みを導入し、ほとんど全てのタイトルを9.99ドルで販売していたが、出版社側にとってはこの価格は低すぎるとの見解も多かった。
そんな中、Appleが「iPad」販売をきっかけに電子書籍市場に参入する際、出版社側が価格の決定権を握り、Appleが30%を受け取る形態にした為、電子書籍全体が値上がりしてアマゾンも新刊やベストセラーの電子書籍を、12.99ドル~14.99ドルへの値上げを強いられたという事。これは米国の独占禁止法にあたる法律に反していると米司法省は訴え、米連邦裁判所は「アップルは進んで共謀に加わっただけでなく、それを強要した」、「アップルによる積極的な働きかけがなければ、この価格操作の共謀は成立しなかった」と認定した。
判決を受け、米Apple社は「電子書籍市場で消費者の選択の幅を広げ、『出版業界におけるアマゾンの独占態勢』を破った」「我々は間違ったことはしていない」として控訴する意向を示した。
以前にもふれた米国での裁判の話である。再びここからは私見になります。
法律に関しては詳しくはないし、まして米国の法律に関してほとんど知識をもっていないので、その視点から語ることは難しいが、まずは「?????」である。日本の独占禁止法とは「不当な価格操作」「自由な競争の制限」を防ぐという点では一致しているが、当たり前のことだけど実際には全く違う法律なのである。
「自由な競争の制限」を単純に捉えると「出版業界におけるアマゾンの独占態勢」の方が問題なんじゃないの?と誰もが思うのではないだろうか?そもそも何でもかんでも9.99ドルで売られたら作る側はたまったもんじゃない。
米国では一般的に新刊本デジタル版の定価は20ドル程度で、実売価格が16ドル前後であったのだが、アマゾンは9.99ドルで販売。デジタル版の仕入れ価格は10ドル前後といわれているので、ほぼ利益は無い計算になる。それではアマゾンはどうしているかというと、実際の利益は「Kindle端末の販売」「雑誌やブログ等の購読費」「専門書等、価格の高い書籍の販売」「著作権の切れた印税の支払いが無い書籍の販売」から得ているのである。
これではごく一部の「専門書を作る出版社」「新聞社」「人気ブログの作者」以外は一冊9.99ドル以内の予算でしか書籍を作れないことになる。ある程度の販売数が見込めるものしか予算をかけられなくなってしまう。
もちろん消費者の側からすれば安い方がいいに決まっている。一概にアマゾンが悪いとはいえない。新しいビジネスのスタイルを確立することで売り上げを伸ばしていくことは企業として当然のことだ。アマゾンはそれに成功しているといえる。しかし、コンテンツを送り出す仕事に関わっている側としては、釈然としないのも事実だ。商品の価値は消費者が決めればいい。内容に対して高いと感じれば消費者は買わないし、見合っていると感じれば購入する。そのラインを見極めて送り出す側が価格を設定するのが自然な気がする。その見極めも失敗や成功を経験則として消費者のニーズや社会の空気を読みながら行っていくのであるし、結果も送り出す側の責任である。これでいいんじゃないかと思える。
実際にはアマゾンも印税支払い率の設定を工夫して条件付きで引き上げたりしているし、100%が9.99ドルではなく、全く出版社サイドをないがしろにしている訳ではない。ただ、Appleの主張する「電子書籍市場で消費者の選択の幅を広げ」という点も重要に思える。Appleのしていることが言葉通りの意図であるかどうかは別として、出版社と消費者の関係はもっと自由度があっていいように思える。まして考え過ぎかもしれないが、今回の裁判の経緯にはどこかApple叩きのような匂いを感じてしまうのである。
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